第2話|発酵の役割
第1話では発酵食の歴史をご紹介しました。古くは縄文時代から発酵食があったとされ、江戸時代になり技術や流通の発展、種麹屋と呼ばれる職業の登場などにより、全国的に発酵食品が広まっていきました。
では、なぜ食べ物に手間をかけてわざわざ発酵させる必要があったのでしょうか?第2話では「発酵」の目的や発酵がもたらした様々な効能についてご紹介していきます。
発酵の役割
保存を目的に始まった発酵
現在のように冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代には、食糧を安定的に確保するために試行錯誤が繰り返されてきました。その中で経験的に食糧を発酵させることで長期間保存できることが知られるようになりました。
ただ発酵は腐敗と紙一重です。腐敗しない環境を整えるために塩分を加えたり、酸性度を高めたり経験的に改良を重ねることで発酵食を洗練させていきました。
アミノ酸に由来する発酵食の旨味
本来保存目的で作られていた発酵食ですが、その副産物とも言えるものが独特の味わいです。特にタンパク質に由来する発酵食は旨味がその大きな特徴です。
タンパク質は20種類あるアミノ酸という物質が組み合わさってできています。これらのアミノ酸がどの順番で並ぶかによって全く違ったタンパク質が出来上がります。豆腐や鳥のササミなどをイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、基本的にタンパク質には味がありません。しかしアミノ酸単独では味がするという面白い特徴があります。
つまり、アミノ酸がタンパク質から離れることでアミノ酸が本来持つ味が引出されることになり、これが発酵食品独特の美味しさを作り出しています。
微生物の働きでタンパク質を分解
発酵食品の製造過程では微生物が自分の栄養源を確保するために食材に含まれるタンパク質を分解します。また旨味だけでなく、炭水化物由来の発酵食では、微生物によって糖分が分解されると乳酸や酢酸といった酸性の物質を生成し、これが酸味を作り出しています。
保存食を作る過程でさらに素材そのものより美味しく食べることができるようになったのも発酵食が広まる一因となったわけです。
栄養学からも注目
さらに現在では、発酵食の持つ栄養学的な利点についても色々とわかってきました。
発酵により栄養を取り込みやすく
例えば大豆は非常に硬いタンパク質でできているため、消化管の中を通過している間に十分に分解されないまま排出されてしまい、栄養源としてしっかり活用することができません。しかし大豆を麹菌などの微生物を作用させてしっかりとタンパク質を分解させると、大豆に含まれる栄養を人の体に取り込みやすい状態にすることができます。これが醤油や味噌です。
このように食材を発酵させることで体内での消化と吸収を助け効率の良い栄養摂取が可能になるわけです。
元来は食糧の保存目的で作られ始めた発酵食ですが、その美味しさと栄養学的な利点から今でも日本の食文化の中心的役割を担っています。
今回の食材:納豆
古くから食卓を支える日本独自の発酵食
日本独自の発酵食である納豆は、室町時代中期には食べられていた記録があります。江戸時代には江戸庶民の貴重なタンパク源として、朝食や夕食のおかずとして重宝されていました。その名残は現代に生きるの私たちの食卓にも見ることができます。
栄養の吸収を助ける発酵の力
納豆の原料は蒸した大豆です。
大豆を蒸したものに納豆菌を繁殖させると納豆になります。大豆が納豆になるとタンパク質の一部を納豆菌が分解してアミノ酸にしてくれています。そのため消化と吸収がしやすく、大豆に含まれる栄養素を大豆そのものを食べるよりもしっかりと体内に吸収できるようになります。同時に分離したアミノ酸が納豆の美味しさを作り出してくれます。
ビタミン補給、食物繊維の摂取まで
さらに納豆菌は様々なビタミンを生産します。
大豆に比べて納豆はビタミンB2,B6,ナイアシンなどは1,2倍から5倍程度に上昇し、ビタミンKについては50倍以上増加していますので、ビタミンの補給という意味でも納豆は素晴らしい食品です。
また納豆は食物繊維の摂取にも役立ちます。
納豆には100グラムあたり5〜6グラムの食物繊維が含まれています。食物繊維とは食物に含まれるヒトの消化酵素では分解されない物質です。大腸がしっかりと働くためには消化の良いものばかりでは不十分で、食物繊維のようにあえて消化しにくいものを大腸に届ける必要があります。
そうすることで大腸の働きを促すと便秘、肥満、糖尿病など様々な症状の予防につながります。
今回は美味しく栄養豊富な納豆をご家庭でさらに楽しめるレシピをご紹介します。
納豆を使ったアレンジレシピ
一口サラダ巻き 豚バラ納豆オクラ柚子大根の青唐辛子味噌添え
作り方
- 20秒ほど塩茹でしたオクラと柚子大根を納豆の粒と合うサイズに切って3つを合えます。
- 豚バラは塩胡椒で下味を付け、サラダで巻けるサイズに切ってフライパンで焼きます。(写真は1枚を半分に切っています)
- お皿にサラダを敷き、その上に焼いた豚にを乗せ、その上に先ほど合えたオクラと柚子大根、納豆を乗せます。
- 最後に、青唐みそこんにゃくを上に乗せて完成です。サラダで巻いて食べてください。
- 今回は納豆を軽く水洗いして表目の大きな滑りを取っていますが、そのまま使用しても構いません。
材料(4〜6個分)
- 納豆(大粒):1パック
- オクラ:2本
- 柚子大根:4切れ
- 豚肉バラスライス:3切れ程度
- 青唐みそこんにゃく:適量
- サラダ(レタス、サンチュなんでも大丈夫です)
レシピ考案者
國本 祥史|Yoshifumi Kunimoto
株式会社ワングローバル 本部長
2009年渡仏。シャンゼリゼ通りの5つ星ホテル(La Maison du Champs Elysee)内レストランにて部門シェフ兼副料理長を担当するなど数多くのレストランでの経験を経て2019年帰国。
今回のおすすめ商品
<福島県>青唐みそこんにゃく(120g)
自社農園で育てた青唐辛子と自社製造のこんにゃくでご飯がすすむ万能おかず味噌
(有限会社 ケ-フーズ生田目)
<福島県>柚子大根(130g)
拍子木状に手切りした大根に柚子を加えた醤油漬け。
(有限会社 長久保食品)